オンライン一橋祭 装飾企画展示 「木の葉とガラス」
昨年の一橋祭では拙作のガラス・タイルを配した小テーブルを西本館入口に展示させていただきました。
オンライン開催となった今年の一橋祭の装飾企画展示イベントの一つとして、「木の葉」をテーマにした拙作のガラスの器の数々を、この場に展示させていただきます。
ご来訪頂いた皆さまに感謝いたしますとともに、ゆっくりとお楽しみいただければ幸いです。
それでは、展示作品をご紹介いたします。
ハイライトは世界のブナの葉を実物サイズで再現したガラスの角皿です。
日本を含めて世界8か国、15種類のブナの葉を、4枚の角皿におさめました。
1枚の角皿は、縦17.5cm✕横約22.5cm✕厚さ約7mm、重さ約650g、平坦な形状(いわゆる「板皿」状態)で、このように4枚を横一列に並べると約90cmの長さになります。
世界各地のブナは、ご覧の通り大きさや形も異なり、一つ一つがとても個性的です。
それぞれの特徴をしっかりと表現するために、ブナの葉の輪郭や葉脈は濃い緑色(松葉色)の粉ガラスを、そして葉色は若草色の粉ガラスを使用しています。
それでは1枚ずつご紹介いたします。
最初は、日本のブナの葉4種類です。
左端は奥多摩の「イヌブナ」、右側の3種類は「ブナ」ですが、生息地(太平洋側と日本海側、北と南)によって形や大きさ(大型~小型)が変わります。
日本のブナは、葉脈の先端部分の縁(ふち)が凹み、葉脈間の縁が凸状に丸みを帯びており、葉全体の形とあわせ、穏やかな温かみを感じる形です。
次は中国のブナの葉4種類です。
左端の「ナガエブナ」は日本のブナと同じように葉脈間の縁が丸みを帯びていますが、「エングラーブナ」は葉脈が先端で枝分かれしており、縁の形状も複雑になっています。
「テリハブナ」は葉柄に近い部分が広く、葉の先端近くが細めになっており、葉脈の先端がそのまま突起状になっています。
「パサンブナ」はその突起が葉の先端方向に向かって鋭く曲がっています。
3枚目は韓国、台湾、メキシコ、カナダのブナの葉です。
韓国は大陸本土にはブナは生息せず、島しょ部のみ生息し、「タケシマブナ」という名称です。
「タイワンブナ」は雰囲気が少し日本のブナに似ているかと思います。
一方、北中米のブナは葉脈間の葉の縁が凸状の丸みではなく、むしろ凹状になっており、「アメリカブナ」は葉脈先端の突起が葉の先端に向かって曲がっています。
最後はヨーロッパのブナの葉です。
中央の「モエシアブナ」は、左右の「オリエントブナ」と「ヨーロッパブナ」の雑種ですが、共通しているのは葉柄近くが細めで、葉の先端近くの方が広くなっていることと、葉脈間の縁が凸状というよりは凹状になっていることでしょうか。
これらの角皿は前述の通り「板皿」状態で湾曲はしていません。
制作の際、ブナの葉の形や色を崩さないよう、石膏型の底面にブナの葉の形を彫って松葉色や若草色のガラスを入れて焼成していますので、焼き上がると板状の透明ガラスの片面はブナの葉の部分が凸状に少し出っ張っている状態になっています。(詳しい制作過程は、「制作過程」を紹介している下記のリンクの弊ブログをご参照ください。)
今までは、ブナの葉が凸状になっている面を下にした画像ばかりでしたが、次の画像は面を反対にしたものです。(大きさの目安になるように、メジャーと葉書を一緒に撮っています。)
中国のブナの皿を参考例にしますが、次の画像がブナの葉が凸状になっている面を下にした場合で、
次が凸状の面を上にした場合です。
ブナの葉の周囲は無色透明の粒ガラスを使用し、若草色も向こう側が透けて見える「透明色」なので、表裏どちらからみても画像ではわかりにくいのですが、触ると明確に分かります。(ブナの葉が凸状の部分はザラザラ感もあり、もう一方は平滑です。)
これらの角皿は「飾り」を主目的としたので平板状にしましたが、平滑な面を上にすれば「板皿」として使用することは可能です。(もちろん汁物にはNGですが...(笑))
また、「透明感のある」、「板皿」だからこそできる遊びが次のように「重ねて楽しむ!」という点です。
下側になったブナの葉の葉柄が何とか判別できる程度に4枚を重ねたものが次の画像で、
全てのブナの葉を少しずつ重なるように4枚の皿を重ねたものがこちらです。
ところで、お気づきの通り、今までご覧いただいた画像の中に入っている「ブナの名前や生息地」は、印刷した紙片を角皿の下に敷いて撮影しています。
ガラスに文字を直接焼き付けるには、陶芸用の釉薬絵の具や特殊なアクリル絵の具を使えば可能です。
また、その他には①透明シールに文字を印刷して角皿の表面に貼り付ける、②透明シールに文字を反転印刷して角皿の裏面に貼り付ける、③L型とかV型のカード立てに印刷物を入れる、といったオプションが考えられます。
実は、角皿のどちらの面を表に向けて飾るかによって、文字の入れ方を変える必要があるので、飾る面をどちらにするかというオプション、そして、文字入れをどうするかというオプションのどれでも対応できるよう、現時点では次のように敢えて文字情報の入っていない状態にしています。
また、世界のブナに関連して、群馬県玉原高原のブナをモチーフにした丸皿と豆皿を、次の通り若草色から新緑、そしてグラデーションをつけた黄葉の2種類ずつ制作しました。
こちらはゆるっと湾曲した「お皿」に加工しています。(この制作方法についてご興味ある方は前述の「制作過程」をご紹介した弊ブログをご覧ください。)
これらの「世界のブナの葉」の制作にあたっては、東京農工大学 名誉教授で、植物学の権威であり、ブナをこよなく愛されている福嶋 司先生のご指導を頂きました。
福嶋先生は「国立キャンパス緑地基本計画」の策定をはじめとして、キャンパスの緑化推進や環境整備を目的とする「一橋植樹会」でも長年ご指導を頂いております。
この場をお借りして御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
(閑話休題)
豆知識其の壱:ブナについて
ブナは北半球の冷温帯(アジア、ヨーロッパ、北中米)に分布し、南半球には自然のものは生息しません。ニュージーランドなどには人口的に植林されているものもあるとのことですが、温帯以北の植物にとって赤道を超えるのは難しいのでしょうね。
ブナを英語でBeech、ドイツ語でBucheと綴りますが、これは古代ヨーロッパでブナの木に文字を書きつけたことから、「書物」である英語のBookやドイツ語のBuchが語源となっているようです。
一方で、ヨーロッパブナの学名はFagus sylvatica(ラテン語で「食べる」「森」という意味)ですが、人々がブナの実から油をとって灯油や食用油として利用したり,ブナ林を養豚樹林として利用したことに由来しているようです。
日本語のブナの語源については諸説あるようですが、①用途は広いが水分が多いので腐りやすく歩合がよくないことから「分の無い木」という意味から(漢字の「橅」、「樗」の由来?)、とか、②風が吹くと葉が「ブーン」と音をたてることから「ブン鳴りの木」の意味から、といったものが代表的ですが、確たるものではないようです。
「木の葉」に戻りますが、この時期キャンパスや大学通りではイチョウやモミジが色づき始めています。
私はモミジが大好きで、イチョウと共に今回の「木の葉」の作品のテーマになっています。
まずは、イチョウの豆皿をご覧ください。
豆知識其の弐:イチョウの語源
中国ではイチョウの葉がカモの脚に似ていることから「鴨脚」といい、一説には明時代に日本からの留学僧がそれを「ヤーチャウ」と聞き、「イーチャウ」、さらに「イチャウ」となまって伝えられたとされています。
漢字の「銀杏」は、実の形がアンズに似て、種の殻が銀白であることに由来するそうです。
「公孫樹」とも書かれますが、これは人(公)が植えてから孫の代になって実がなり食べられるようになるという意味だそうです。
さて、次にご覧いただくのは、紅葉の丸皿、角皿、片口、ぐい吞みです。
紅葉だけでは不公平なので、緑のモミジの丸皿、角皿、冷抹茶碗(サラダボウルにも使えます?!)もご覧ください。
豆知識其の参:モミジとカエデの違いは?
①語源について
・(染物の)揉み出づ(もみいづ)→もみづ(文語)→もみず(動詞。葉が黄色や紅色に変化する)→モミジ
・蛙の手→カヘルデ→カエデ
という変遷のようです。
ちなみにベニバナの花を使う「紅花染め」はこれを真水につけて揉むと、まず水溶性の黄色い色素を「揉み出す」ことができ、次に、アルカリ性の灰汁(あく)に浸して揉むと、鮮やかな紅色を揉み出せるそうです。紅花染めに由来すると考えると、「赤葉」ではなく「紅葉」というのも納得感があります。
万葉集にも「もみつかえるて」(紅葉したカエデ)という表現がありますので、この二つの言葉が別々に使われていたのが分かります。
②分類学上の違いについて
実は、モミジもカエデもすべてカエデ属であり、カエデという大きなくくりの中にモミジがあるというイメージです。
カエデはmaple、モミジはJapanese mapleと英訳され、モミジとカエデを区別しているのは日本だけだそうです。ちなみに、日本ではモミジと認識されているのは、イロハモミジ、オオモミジ、ヤマモミジで、その他は似ていてもすべてカエデと分類されるそうです。
俗に、葉の切れ込みの数や、その深さで区別する、と言われたりもしてますが、確定的な分別方法ではないようです。
再び「木の葉」に戻ります。
木の葉ではないのですが、「葉っぱつながり」ということで、睡蓮の丸皿やハクサイの小鉢も友情出演です(笑)。
昨年装飾企画で展示した小テーブルのガラス・タイルにも、若葉から新緑、そして黄葉から紅葉に変わるモミジや、睡蓮、木々の若葉などを立体的に入れていました。
こちらの豆皿は今回のイベントが決定する前に制作していたものですが、右の2枚はブナ、左の2枚は「国立駅の旧駅舎」と、大学通の「桜」と「イチョウ」をイメージして試作したものです。(説明を受けてもなお、良く分からないかもしれません。スミマセン。)
今年の装飾企画に「木の葉」を選んだ背景には、「自然豊かな一橋大学キャンパスの植栽」について皆さんにご興味を持って頂きたいという思いがあります。
加えて、このコロナ禍がおさまったら、キャンパスの貴重な緑を守り育てる「一橋植樹会」の活動に、より多くのOBや教職員の方々、学生の方々が参加して頂ければありがたいと思っています。
最後に少し自己紹介をさせて頂きます。
私は2年前に国立で「アトリエ&ギャラリー仁(Jin)」という店を始めましたが、このコロナ禍での感染防止のために今年の6月末に一旦閉店し、現在は自宅の工房でガラス作品の制作・販売、そしてガラス工芸教室を続けています。
余談ですが、私は日本酒が大好きなので、このようなぐい吞みをメインに制作しています。
ぐい吞みの底に立体的な錦鯉や重ねたモミジを入れているので、お酒を注ぐと立体感が増し、楽しく美味しくお酒が飲めます。
8年前にガラスを始めたのは、「美味しく、楽しく日本酒を飲むため」という芸術や工芸理念とは程遠い不純な(ある意味、純粋な?)動機からでしたが、ガラス工芸や日本酒にご興味のある方はお気軽にお問合せください(笑)。
今年初めての試みとなるオンライン一橋祭をこの展示で少しでも盛り上げることができれば、また、皆さんに楽しんでいただくことができければ幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
アトリエ&ギャラリー仁(Jin)
村上 仁 拝
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